この椿、見るためだけじゃない。
はじめに|椿の花の、その先を見たことがありますか?
伊豆大島を走っていると、
あちこちで椿の木を見かけます。
冬になれば赤い花を咲かせ、
大島を代表する景色の一つになります。
でも、
昔の島の人たちにとって椿は、
見るためだけの木ではありませんでした。
強い風から家や畑を守る。
木を薪や炭として使う。
秋になれば実を拾い、
その種から油を搾る。
今、観光客が眺めている一本の椿も、
昔は島の暮らしを支える木の一つでした。
今回は、
花の先にある「大島の椿」
を見ていきます。
1|椿油は、花からできるわけではない
「椿油」と聞くと、
赤い椿の花から油を採っているようなイメージを持つ人もいるかもしれません。
でも、
椿油になるのは、
花ではなく「種」です」。
椿は花を咲かせたあと、
実をつけます。
その実の中にある種を取り出し、
乾燥させ、
圧搾することで椿油が作られます。
つまり、
大島で見る椿の花と、
お土産売場に並んでいる椿油は、
別々のものではありません。
花が咲く。
実がなる。
その中に種ができる。
種から油を搾る。
一本の木の中で、
すべてつながっています。
東京都の地域資源資料では、
伊豆大島には現在、
約300万本のヤブツバキがある
とされています。
では、
なぜこの島には、
これほどたくさんの椿があるのでしょうか。

2|なぜ伊豆大島には、こんなに椿がある?
「大島は火山島だから椿が多い」
それだけで説明できるわけではありません。
伊豆大島は比較的温暖で、
火山灰などを含む地面は水はけがよい。
こうした環境は、
ヤブツバキが育つ条件の一つになってきました。
さらに、
伊豆大島では縄文時代中期から後期の地層から、
椿の葉の化石
も見つかっています。
つまり、
少なくともその時代には、
すでにこの島に椿が存在していたことが分かります。
ただし、
今の大島にこれほど椿が多い理由は、
自然だけではありません。
島の人たちは、
油を採るため、
暮らしに利用するために、
雑木の中でも椿を残してきました。
椿が多い場所を維持し、
椿林や椿山として使ってきた歴史があります。
**椿は、自然に残っただけではなく、
人が残してきた木でもある。**
気候。
火山島の土地。
そして、
椿を必要としてきた人の暮らし。
その三つが重なって、
今の「椿の島」の景色につながっています。
3|椿は、島の風から暮らしを守っていた
伊豆大島で暮らしていると、
風の強さを感じる日が少なくありません。
海から吹く風をまともに受ければ、
家だけでなく、
畑や作物にも影響します。
そこで島の暮らしの中で使われてきたのが、
椿です。
硬い幹。
厚い葉。
風や乾燥にも比較的強い性質を持つ椿は、
家や畑のまわりに植えられ、
防風林
として利用されてきました。
甘藷や麦などを育てる畑を、
島の強い風から守る役割もあったとされています。
つまり、
**椿は「花を見る木」より先に、
「風を止める木」でもありました。**
今、
大島を車で走っていると、
道沿い。
家のまわり。
畑の近く。
さまざまな場所で椿を見かけます。
そんなとき、
「椿が多い島だから」
だけで通り過ぎるのではなく、
「この木は、何を守るために残されたんだろう?」
と少し見方を変えてみる。
それだけで、
いつもの大島の景色が少し違って見えてきます。
伊豆大島には、椿そのものをじっくり見られる場所もあります。花の色や形の違いまで見てみたい方は、大島公園の椿園もあわせて訪れてみてください。
そして椿は、
風を防ぐだけの木でもありません。
幹や枝は、
薪や炭
としても使われてきました。
一本の椿を、
花だけではなく、
木そのものまで暮らしの中で使っていたのです。

4|秋になると、「花」ではなく「実」を拾った
冬に咲く椿の花は、
今では伊豆大島を代表する景色の一つです。
でも昔の島の暮らしでは、
花が終わったあとの椿にも大切な役割がありました。
秋になると、
島の人たちは椿の実を拾います。
実の皮をむき、
中にある種を取り出す。
その種を乾燥させ、
圧搾することで、
椿油が生まれます。
昔の大島では、
籠を背負って椿の実を集め、
取り出した種をムシロの上に広げて天日干しする光景も見られたとされています。
つまり椿は、
冬に花を眺めて終わる木ではありません。
**花が終わったあとにも、
島の暮らしは椿とつながっていた。**
搾られた椿油は、
料理に使う。
灯りに使う。
髪の手入れに使う。
暮らしのさまざまな場面で利用されてきました。
現在では製油所によって、
蒸してから圧搾する方法や、
加熱を抑えて搾る方法など、
作り方にも違いがあります。
ただ、
今回覚えておきたいのは製法の違いではありません。
**大島で咲いていたあの花の先に実がなり、
その種が一本の椿油になる。**
そのつながりです。

5|椿油は、「暮らしの油」から「大島の土産」になった
もともとの椿油は、
観光客へ売るために作られたものではありません。
島の人たちが、
料理や灯り、
髪の手入れなどに使う、
暮らしの中の油でした。
そこから大島を訪れる人が増えていくと、
椿油は少しずつ、
島の外へ持ち帰られるもの
にもなっていきます。
1927年には、
伊豆大島で大島椿製油所が創業しました。
その後、
椿油は大島を代表する商品として島外にも知られるようになっていきます。
ここで面白いのは、
まったく新しい観光商品が作られたわけではないことです。
島で昔から使われていたものが、
**「大島らしいもの」として、
旅の人にも持ち帰られるようになった。**
暮らしの道具だった椿油が、
産業になり、
今では大島を代表する土産の一つになっています。
現在では椿油をはじめ、大島牛乳や牛乳煎餅など、島の背景を感じられるものがお土産として並んでいます。旅行の最後に何を持ち帰ろうか考えている方は、島のお土産全体から探してみてください。
6|次に大島で椿を見たら、「実」まで見てみる
この記事を読んだからといって、
椿の歴史を全部覚えておく必要はありません。
次に伊豆大島で椿を見たとき、
ほんの少しだけ、
花の先まで見てみてください。
冬なら花を見る。
季節が変われば実を探してみる。
冬なら、
花を見る。
季節が変われば、
実を探してみる。
木が家や畑のそばに並んでいたら、
「昔は風から何かを守っていたのかな」
と考えてみる。
お土産売場で椿油を見つけたら、
「この油も、椿の種からできているんだ」
と思い出す。
それだけで、
ただの「大島名物」だった椿油と、
道端にあった一本の椿が、
少しつながって見えてきます。
そして、
椿油がどうやって作られるのかを、
見るだけではなく実際に体験する方法もあります。
大島ふるさと体験館では、
椿油しぼり体験
が行われています。
椿の実から、
実際に油が生まれる工程を体験できるので、
この記事を読んだあとに行けば、
椿の見え方はさらに変わるはずです。
開催内容や予約条件などは変更される場合があるため、
体験したい場合は、
事前に大島ふるさと体験館の最新公式情報を確認してください。

椿油には食用として使われるものもあり、伊豆大島の食文化ともつながっています。べっこうや明日葉、くさやなど、島の食をもっと知りたい方は、グルメ特集もあわせてどうぞ。
伊豆大島の椿は、
きれいな花を咲かせるだけの木ではありません。
強い風から、
家や畑を守る。
幹や枝は、
薪や炭になる。
秋には実を拾い、
その中の種から油を搾る。
そうやって椿は、
長い間、
島の暮らしのすぐそばにありました。
今、
観光客が眺めている椿の多い景色も、
自然だけでできたものではありません。
椿を使い、
必要とし、
残してきた人たちの暮らしも、
その景色につながっています。
だから、
次に大島で椿を見かけたら、
花だけではなく、
その先にある**「実」**まで少し探してみてください。
**この椿、
見るためだけじゃない。**
知ってから走ると、大島の景色は少し変わる。
椿の並木や島の風景も、その背景を知ってから見ると少し違って見えてきます。
伊豆大島を自分のペースで巡りたいときは、島内の移動についてblissのLINEからご相談いただけます。
参考資料
