はじめに|地下へ入った水は、そのあとどこへ行く?
前回の記事では、
伊豆大島に、
常時水が流れる川や湖がない理由を紹介しました。
大島に降った雨の多くは、
水を通しやすい火山性の地面へ染み込み、
地下水になります。
では、
その水は、
地下へ入ったあと、
どうなるのでしょう。
地下水として蓄えられるもの。
湧水となって、
再び地表へ現れるもの。
そして、
その一部が、
地下にある火山の熱や火山性流体などの影響を受けて温められれば——
温泉になります。
伊豆大島の温泉は、
ただ、
「火山島だから温泉がある」
という一言だけでは終わりません。
1986年の三原山噴火では、
実際に島内の一部で、
地下水温の上昇が観測されました。
そして、
噴火によって高温化した水源は、
現在、
旅行者も入ることのできる温泉の物語へとつながっています。
1|伊豆大島では、なぜ温泉が湧く?
温泉の始まりは、
意外と身近なものです。
雨。
地上へ降った雨の一部は、
地面へ染み込み、
地下水になります。
伊豆大島では、
火山灰やスコリア、
溶岩などからできた火山性の地面へ、
雨水が浸透しやすいことを、
前の記事でも紹介しました。
「そもそも、なぜ大島では雨が降っても川ができにくいの?」というところから知りたい方は、火山島の地面と地下水の関係を前の記事で詳しく紹介しています。
その地下水の一部が、
地下にある火山の熱や、
火山性の流体などの影響を受けることで、
温められることがあります。
そして、
温められた地下水を、
地下の割れ目や、
人工的に掘った井戸などを通して取り出し、
温泉として利用します。
ここで、
一つ大切なことがあります。
地下水が、マグマに直接触れているわけではありません。
「火山の温泉」と聞くと、
マグマのすぐそばを水が通って、
熱湯になって出てくるようなイメージを持つかもしれません。
でも実際には、
地下水が、
火山の熱や火山性流体などの影響を受けて温められる。
と考える方が正確です。
つまり、
前の記事で紹介した、
地面へ入っていった水の物語は、
そこで終わりではありません。
**川を作らなかった水が、
温泉になる。**
正確には、
地下へ浸透した水の一部が、
火山島の地下で温められ、
私たちが入る温泉へとつながっているのです。

2|1986年、地下の水にも変化が起きた
伊豆大島の温泉を考えるうえで、
外せない出来事があります。
1986年の三原山噴火です。
1986年11月15日、
三原山で噴火が始まりました。
さらに、
11月21日には割れ目噴火が発生。
その影響によって、
島では全島避難が行われました。
伊豆大島にとって、
非常に大きな出来事です。
でも、
このとき変化していたのは、
火口や溶岩など、
地表で見えるものだけではありませんでした。
地下の水にも、変化が起きていました。
噴火前後の地下水を調べた研究では、
元町地区などの一部の井戸で、
噴火後に水温が上昇したことが確認されています。
その中には、
噴火直後から、
年におよそ1℃の割合で水温が上がったと報告された井戸もあります。
つまり、
**1986年噴火後、
地下水の温度上昇が実際に観測された。**
ということです。
ただし、
ここは誤解しないようにしたいところです。
**1986年に初めて、
大島の地下が熱くなったわけではありません。**
研究では、
噴火以前から、
島内には周囲より温度の高い地下水が存在していたことも確認されています。
伊豆大島は、
1986年以前から、
地下に火山の熱を持つ島でした。
1986年の噴火は、
そうした地下水の一部に、
さらに温度変化が観測された出来事です。
火山の変化は、
地上の景色だけではなく、
私たちの目には見えない地下の水にも現れていた。

3|高温化した水源を利用して「浜の湯」が生まれた
1986年の噴火から、
約4年。
1990年8月。
大島町は、
噴火によって高温化した水源を利用した「大島温泉・浜の湯」
をオープンしました。
現在の浜の湯は、
海を目の前にして、
夕方には水平線の向こうへ沈む夕日を眺められる、
大島を代表する温泉の一つです。
初めて訪れた旅行者にとっては、
「海を見ながら入れる露天風呂」
という印象が強いかもしれません。
でも、
そのお湯の背景まで知ると、
見え方が少し変わります。
1986年。
三原山が噴火する。
その前後で、
島の地下水にも温度変化が観測される。
そして数年後、
噴火によって高温化した水源を利用した浜の湯が開設される。
つまり、
浜の湯は、
単に「火山島にある温泉」というだけではありません。
**地下で起きた火山の変化が、
旅行者の体験へつながった場所。**
とも言えます。
ただし、
ここでも注意が必要です。
研究で温度上昇が確認された特定の井戸と、
浜の湯で利用している水源を、
直接同じものだとは断定しません。
確認できるのは、
1986年噴火後に一部で地下水温上昇が観測されたこと。
そして、
1990年に「噴火により高温化した水源」を利用する浜の湯が開設されたこと。
この二つです。
その事実だけでも、
十分に面白いと思います。
海を見ながら入っているそのお湯にも、
三原山の歴史が、
目に見えない形でつながっているのです。
浜の湯から見える景色や利用方法など、実際に訪れるときの情報については別の記事で詳しく紹介しています。

4|御神火温泉にも、1986年噴火後の温泉が使われている
1986年噴火後の地下の変化につながる温泉は、
浜の湯だけではありません。
元町にある、
愛らんどセンター御神火温泉。
御神火温泉の詳細などの確認はこちらを確認ください。
ここでも、
1986年の三原山噴火後に湧き出した温泉が利用されています。
現在では、
大型客船で朝早く到着した人が立ち寄ったり、
観光のあとに体を温めたりする場所として知られています。
でも、
そのお湯の背景をたどると、
やはり、
1986年の三原山噴火
へつながります。
ただし、
ここで一つ、
大切にしたいことがあります。
1986年の噴火では、
割れ目噴火が発生し、
全島民が島外へ避難する事態となりました。
島にとって、
大きな脅威だった出来事です。
だから、
「噴火のおかげで温泉ができた」
という軽い言い方はしません。
火山は、
島の暮らしに恵みだけを与える存在ではない。
ときには、
島を離れなければならないほどの脅威にもなる。
その一方で、
地下にある熱は、
時間を経て、
温泉という形で暮らしや旅行にも利用されてきました。
**脅威でもあり、
恵みでもある。**
伊豆大島で火山と暮らすということは、
その両方と向き合うことなのだと思います。
5|でも、大島の温泉すべてが1986年に生まれたわけではない
ここまで読むと、
1986年の噴火をきっかけに、
伊豆大島で初めて温泉が生まれたようにも感じるかもしれません。
でも、
それは違います。
大島には、1986年以前から高温の地下水がありました。
噴火前から行われていた地下水調査でも、
島内には、
周囲より水温の高い地下水域が存在していたことが確認されています。
つまり、
1986年の噴火によって、
突然、
何もなかった地下に熱が生まれたわけではありません。
伊豆大島そのものが、
もともと、
地下に熱を持つ活火山。
1986年は、
その地下水系の一部に、
さらに温度変化が観測された出来事です。
現在、
大島温泉ホテルの三原山温泉では、
地下約300mから、
69℃以上の温泉が汲み上げられています。
地上では、
三原山。
溶岩。
火口。
裏砂漠。
そんな形で火山を見ることができます。
でも、
地下にも、
火山島の熱は続いています。
噴気を見ると、「地下の熱」が少し分かる
三原山を歩くと、
剣ガ峰周辺などで、
白い噴気が見られることがあります。
これは、
雨水や地下水などが地下で熱せられ、
水蒸気となって、
岩石の隙間から地表へ出ているものです。
もちろん、
この噴気と、浜の湯の温泉が同じ水
という意味ではありません。
でも、
どちらにも共通しているのは、
地下の水と、火山の熱が関係している。
ということ。
山の上では、
その熱が
噴気
として見える。
町へ戻れば、
温泉という形で、
その熱を体で感じることもできる。
同じ火山島を、
違う方法で感じているとも言えます。
温泉の背景にある三原山そのものをもっと知りたい方は、火口や溶岩、現在の火山地形について紹介した記事もあわせて読んでみてください。温泉とは別に見えていた景色が、同じ火山の物語としてつながってきます。
6|温泉に入ることも、「火山を体験する」ということ
伊豆大島へ来たら、
三原山を見る。
火口を歩く。
黒い溶岩を見る。
裏砂漠へ行く。
そうした景色は、
伊豆大島が火山島であることを、
目で感じさせてくれます。
でも、
火山の体験は、
山の上だけにあるわけではありません。
浜の湯で、
海を眺めながら、
温かいお湯につかる。
三原山温泉で、
火山を眺めながら、
温泉に入る。
御神火温泉で、
旅の途中に体を温める。
そのお湯もまた、
地下へ入った水と、
火山島の熱の物語につながっています。
もちろん、
温泉に入るときに、
難しい地質のことまで考える必要はありません。
ただ、
「このお湯は、
地下で火山の熱と関係しているんだ」
と少しだけ知っている。
それだけで、
同じ温泉の見え方は、
少し変わるかもしれません。
前の記事では、
伊豆大島を、
「水が、地面の下に隠れる島」
と紹介しました。
その水の一部は、
地下で温められ、
温泉として、
もう一度、
私たちの前に現れます。
**川を作らなかった水が、
温泉になる。**
そして、
伊豆大島では、
その温泉に、
自分自身が入ることができます。
三原山は、見るだけの火山じゃない。
その熱に、入ることもできる。

火山を知ってから巡ると、大島はもっと面白い。
三原山。
溶岩。
裏砂漠。
そして温泉。
一見すると別々の景色や体験も、
背景には同じ火山島の物語があります。伊豆大島を自分のペースで巡りながら、
「なぜ?」を一つずつ見つけてみてください。島での移動や過ごし方について迷ったときは、
blissのLINEからお気軽にご相談ください。知ってから巡ると、いつもの景色が少し変わる。
参考資料
気象庁|火山・温泉の仕組み
気象庁|1986年三原山噴火に関する記録
大島町|大島小史・浜の湯開設記録
大島観光協会|御神火温泉
大島温泉ホテル|三原山温泉
伊豆大島ジオパーク|剣ガ峰・噴気
